青木繁 代表作品 絵入り書簡
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青木繁「絵入り書簡」東御市梅野記念絵画館蔵
其後ハ御無沙汰失礼候。モー此処に来て一ヶ月余になる。この残暑に健康はどうか?僕は海水浴で黒んぼーだよ。定めて君は知って居られるであらうがこゝ は万葉にある?女良』だ。すぐ近所に安房神社といふがある。官幣大社で、天豊美命をまつったものだ。何しろ沖は黒潮の流を受けた激しい崎で上古に傅はら ない人間の歴史の破片が埋められて居たに相違ない。
漁場として有名な荒つぽい処だ。冬になると四十里も五十里も黒潮の流れを切って二月も沖に暮らして漁するそうだよ。
西の方の濱伝ひの隣りに相の浜といふ処がある。詩的な名でないか。其次ハ平沙浦(ヘイザウラ)、其次ハ伊藤のハナ、其次ハ洲の崎でこゝは相州の三浦半 島と遥かに対して東京湾の口を扼して居るのだ。
上図はアイドといふ処で直ぐ近処だ。好い処で僕等の海水浴場だよ。
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青木繁「絵入り書簡」東御市梅野記念絵画館蔵
上図が平沙浦、先に見ゆるのが洲の崎だ。富士も見ゆる。
雲ポッツリ、
又ポッツリ、ポッツリ!
波ぴちゃり、
又ピチャリ、ピチャリ!
砂ヂリヂリとやけて
風ムシムシとあつく
なぎたる空!
はやりたる潮!
童謡
『ひまにャ来て見よ、
平沙の浦わァー、
西は洲の崎、
東は布良ァよ
沖を流るゝ
黒瀬川ァー
サアサ、
ドンブラコッコ
スッコツコ !!!』
これが波ののどかな平沙浦だよ。濱地には瓜、西瓜抔がよく出来るよ。蛤も水の中から採れるよ。
晴れると大島利島シキネ島抔が列をそろえて沖を十里にかすんで見える。
其波間を漁船が見えかくれする。面白いこと。
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青木繁「絵入り書簡」東御市梅野記念絵画館蔵
夫れから東が根本、白浜、野島だ、僅かに三里の間だ。野島崎には燈台がある。
沖ではクヂラ、ヒラウヲ、カジキ「ハイホのこと」マグロ、フカ、キワダ、サメがとれる。皆二十貫から百貫目位のもので釣るのだ、恐ろしい様な荒つぽい 事だ。
灘では、トビ魚(アゴ)、カツオ、タイ、アヂ、ヒラメ、サバ、抔だ。それから岸近くでは小アヂ、タカベ、クロダイ、カレイ、ボラ、抔だ。磯部ではタコ (大いよ)、イセヱビ、メチダイ、メジナ抔だよ。
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青木繁「絵入り書簡」東御市梅野記念絵画館蔵
夫れから濱磯では、モクツ、モク、アラメ、ワカメ、ミル、トサカメ、テングサ、メリクサ、アワビ、ハマグリ、タマガヒ、トコボシ、ウニ、イソギンチャ ク、ホラノカヒ、サゝヱ、アカニシ、ツメッケイ(ツメガヒ)抔だ。
まだまだ其外に名も知らぬものが倍も三倍もある。また種族が同じで殊類なものもあるのだ。
今は少々製作中だ。大きい、モデルを沢山つかつて居る。いづれ東京に帰へつてから御覧に入れる迄は黙して居よう。
八月二十二日 繁
満雄兄
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